「挫折した経験を教えてください」「苦手なタイプの人はどんな人ですか」「理不尽な上司から矛盾した指示を受けたらどうしますか」。消防士の面接では、こうした価値観を問う質問が繰り返し聞かれます。FFAでは、2026年5月から8月に行った面接練習142回の記録を分析しました。この3つの質問はどれも、それなりの回数で出ています。元消防士の講師が授業で解説した内容をもとに、面接官が見ているポイントと答え方を整理します。
価値観を問う質問で、面接官が見ているもの
面接官は、正解を探しているわけではありません。目の前の人が、消防の仕事でやっていける人かどうかを見ています。
たとえば挫折経験の質問では、「乗り越えたかどうか」よりも「どのように乗り越える人か」が大切です。消防に入った後も、大変なことは必ずあります。そのときにどう対処できる人なのかを、面接官は聞いています。
質問ごとに、見ている項目も違います。
- ・挫折経験:困難にぶつかったときに、自分で乗り越えられるか(積極性・責任感・学習能力)
- ・苦手なタイプの人:いろいろな人がいる職場で、うまくやっていけるか(協調性)
- ・ストレス:自分の感情を、自分で整えられるか(自己コントロール)
- ・理不尽な上司・矛盾した指示:冷静に、正しい判断ができるか(判断力・責任感)
東京消防庁は、職員が約1万9千人います。全国から、さまざまな人が集まる職場です。苦手な人がいても、理不尽なことがあっても、働き続けられる人かどうか。価値観を問う質問には、その確認の意味があります。
すべての回答の土台になる2つの原則
3つの質問に共通する原則は、「嘘をつかない」と「ネガティブなまま終わらせない」です。
嘘をつかない
面接官は、年齢が20歳も30歳も上の大人です。嘘は見透かされると思っておきましょう。一度嘘をつくと、深掘りされたときに、その嘘を守るために別の嘘が必要になります。これほど苦しいことはありません。
本当の自分を出した方が、うまくいきます。ただし、本音をそのまま言えばよいわけではありません。表現の仕方は工夫が必要です。
ネガティブなまま終わらせない
過去のネガティブな出来事は、誰にでもあります。隠すのではなく、「そういうことがありました」と認めたうえで、「自分はこのように成長した」「このように気づいた」と言えるようにしておきます。
これは、厳しい質問への対応にも通じます。FFAの合格者インタビューでは、圧迫的な質問に対して「一度受け止めて、ポジティブに変換する」という対応が語られていました。「確かにそうかもしれません。ですが、〇〇の経験から、人の意見を聞くことを学びました」という形です。
挫折経験の答え方
何を挙げるか
挫折というと、大きな失敗を思い浮かべる人が多くいます。もちろん、そうした経験があれば構いません。ただ、それがなくても大丈夫です。自分の中で、一番感情が揺れ動いた経験や、ショックが大きかった経験を挙げます。
たとえば、高校で初めて部活動のレギュラーから落ちた経験でも構いません。中学までは試合に出続けていた人が、初めて出られなくなり、試合に出られない人の気持ちが分かった。そうした流れでも、十分に伝わります。
社会人の場合は、今の仕事での経験を挙げるのが一番よいとされています。面接官は「最新のその人」を知りたいからです。28歳で民間企業に勤めている人が高校時代の話をすると、「この10年間は何をしていたのですか」という疑問が出てしまいます。消防から消防への転職の場合は、消防学校の初任科での失敗を挙げる人も多く、優先して出してよい経験です。
ただし、どの時期の話を聞かれるかは分かりません。社会人でも、部活や学生時代の話をしっかり話せるようにしておきましょう。アルバイト・学生時代・仕事・部活のそれぞれに、失敗経験を1つずつ用意しておくと安心です。
話す流れ
流れは、次の4つです。
- 何があったか:経験の事実。可能であれば数字を入れる
- そのときの気持ち:どう思ったのかを、しっかり出す
- どう立ち直ったか:ここが本題。取り組んだことでも、気持ちの切り替えでもよい
- 今どう生かしているか:今後どう生かすか、すでに生かしていること
とくに3つ目が重要です。「その経験から、計画的に取り組むようになりました」という学びも大切ですが、それだけでは足りません。次に困難が来たときに、その人が立ち直れるかどうかは別の話だからです。切り替えの方法まで、話せるようにしておきましょう。
よくある挫折ネタの、足りない点
- ・部活での怪我:「リハビリを頑張りました」だけで終わりがちです。支えてくれた人や、自分なりに考えた練習・トレーニングまで加えます
- ・レギュラー落ち:落ちた事実だけで終わりがちです。なぜ自分にとって挫折だったのか、そこから何に気づいたのかを加えます
- ・受験の失敗:「失敗しました」だけでは、よくある話で終わります。そこからどう切り替えたか、何を学んだかを加えます
- ・ポジションの変更:「やる気がなくなりました」で止まりがちです。本来のポジションでやりたかった気持ちと、どう切り替えたかを加えます
受験の失敗では、こんな例がありました。大学受験に失敗し、「置かれた場所で咲こう」と考えを切り替えて、大学時代に宅建(合格率は約20%)を取得した人です。一つの目標に向かって頑張った経験を、はっきり話せたことが、よい回答になりました。
ポジション変更の場合は、とくに注意が必要です。「希望と違うポジションになってやる気がなくなった」と言うと、面接官は「仕事でも大丈夫だろうか」と感じます。気持ちを切り替えて取り組んだ話まで入れましょう。
回答の例(書き方を示す例)
足りない例と、よい例を並べます。
- ・足りない例:「高校で怪我をして1年間野球ができず、やる気がなくなった時期がありました。それでもリハビリを頑張って復帰し、協調性の大切さを学びました」
- ・よい例:「高校2年の春に腰を痛め、約1年間プレーできませんでした。仲間が試合に出ている姿を見て、強いショックを受けました。それでも、練習の準備や声かけなど、プレー以外でチームに貢献できることを探して続けました。この経験から、自分の役割を自分で見つけて動く姿勢が身につきました」
※上記は、書き方を示すための例です。内容は、ご自身の経験に置き換えてください。
よい例には、いつ・どのくらいの期間という数字があり、そのときの気持ちがあり、切り替えの行動があり、今に生きる学びがあります。
挫折経験でよくある5つの落とし穴
- ・失敗した感じが出ていない。そもそも挫折に聞こえない
- ・「やる気がなくなった」で止まってしまう
- ・話を広げすぎて、別の話になっている
- ・聞かれていないことまで話している
- ・「リハビリを頑張った」だけで、人柄が見えない
なかでも多いのが、聞かれていないことまで話してしまうパターンです。「経験は何ですか」と聞かれただけなのに、経験・得たこと・消防でどう生かすかまで、すべて話してしまう人がいます。面接を意識しすぎて、先回りしているのです。聞かれたことに、まず答えましょう。
納得度の高い回答には、3つの共通点があります。
- ・周りから支えられていたことを伝えられる
- ・自分の弱さを隠さない(当時は考えが甘かった、と言える)
- ・数字と実績が入っている
仕事は一人ではできません。支えてくれた人の存在を話せることは、消防の仕事でも大切な姿勢です。弱さを認めたうえで、そこから成長していれば、問題ありません。口の上手い人より、自分の過去に本気で向き合っている人を採用したい。面接官の側には、そうした考えがあります。
次に来る質問を、先に準備する
挫折経験の後には、次のような質問が続くことがあります。
- ・なぜ、あきらめなかったのですか
- ・周りの人は、どう関わってくれましたか
- ・消防でも、同じようなことがあったらどうしますか
一度考えておくだけで、本番の答えは大きく変わります。
苦手なタイプの人の答え方
面接官が知りたいのは「誰が苦手か」ではない
面接官が知りたいのは、誰が苦手かではありません。苦手な人がいる職場でも、ちゃんと働けるかです。だから、対処法が一番大切になります。「その人が上司だったらどうしますか」と、聞かれることもあります。
苦手なタイプの選び方
面接官も共感できるタイプを選びます。
- ・避けたいタイプ:「大きな声であいさつする人」が苦手、と言うと、消防士としてやっていけないと判断されてしまいます。「自分で仕事をどんどん進める人」も、消防に必要な要素のため、引っかかりやすい答えです
- ・選びやすいタイプ:感情的な人、嘘をつく人、時間にルーズな人は、多くの人が挙げる、共感されやすい例です
- ・情報をつけ足すと分かりやすくなるタイプ:「自分の考えで物事を進める人」は、「チームの方針があるのに、自分の考えで進める人」とすると伝わります
「理不尽な人」は、消防の面接では挙げない方がよいと考えています。この答えは多いうえ、これから入る組織に対して言う言葉としても、あまり適切ではないためです。
2つ用意する。他の質問と重ねない
- ・2つ用意しておく:「苦手なタイプを2種類教えてください」と、急に聞かれた例があります。準備していないだろうと想定して、そのときの対処を見ているのかもしれません。受験者は焦るので、事前に用意しておきましょう
- ・他の質問と被らないようにする:「理不尽な上司からの指示にどう対応するか」に答えた直後に、苦手なタイプで「理不尽な人」と答えると、「大丈夫なのかな」と感じさせてしまいます。そのときは、臨機応変に苦手なタイプを変更します
対処法は、段階をつけて話す
対処法は、段階をつけると、考えが整理されて聞こえます。
- 相手を理解しようと努める:仕事の中では、積極的に関わって相手を知ります。「適度な距離を保ちます」という答えは避けましょう。消防は命を預け合う仕事なので、距離を取る姿勢は合いません
- それでも分かってもらえないときは、相談する
- それでも難しいときは、組織としてみんなで解決する
あきらめずに粘り強く関わる姿勢が、伝わる答えです。
「苦手な人はいません」と答える場合
苦手な人がいない人も、実際にいます。ただ、「いません」だけで終わると、準備していないと思われる可能性があります。いない理由まで言えるようにしておきましょう。
実際にあった答えは、「そういう人もいると常に思って行動しているので、受け入れるようにしています。その人の良さを見つけるようにします」というものでした。理由が説明できていれば、納得されやすくなります。
質問を復唱する
面接練習では、答えている最中に、聞かれた質問を忘れてしまう人がいます。防ぐ方法は、質問を復唱してから答えることです。「私の苦手なタイプは、〇〇です」と始めれば、的確に答えられます。苦手なタイプに限らず、すべての質問で使えます。
ストレスの答え方
ストレスの原因は、自分にする
ストレスの質問では、原因を自分に向けます。
- ・外に向いた例:「自分勝手に物事を進める人がいると、ストレスを感じます」
- ・自分に向いた例:「計画的に物事を進められない自分に対して、ストレスを感じます」
外に矢印が向いていると、深掘りされたときに答えにくくなります。「そういう人が職場にたくさんいたら、どうしますか」「ストレスをすごく感じるのではないですか」と聞かれるからです。
解消法は、一人でできるものを
ストレス解消法を「友達と話すこと」と答えた例では、「職場に友達はいませんが、職場でストレスが溜まったらどうしますか」と聞かれました。職場でも実行できる、一人でもできる方法を用意しておきます。筋トレや、静かな場所でお茶を飲むことなどです。
また、最近は「ストレスは全然感じません」と答える人もいます。小さなことでよいので、何か挙げるようにしましょう。そして、ここでも聞かれたことだけに答えます。ストレスを聞かれただけで、対処法まで全部話すと、話しすぎになります。
理不尽な上司・矛盾した指示への答え方
上司や階級は、何のためにあるのか
まず、消防に上司や階級がある理由を押さえましょう。現場でより早く、より安全に活動し、部隊や組織を統率するためです。上司は、部下がいるからいるのではありません。下の意見も吸い上げて、総合的に判断し、活動をよくするのが役割です。
意見が食い違ったときも、自分の意見は伝えます。ただし、自分の意見を通したいからではありません。組織の目的を達成するため、住民のためです。この軸があると、ぶれません。
「上司だから必ず従います」も、「すぐに自分の意見を言います」も、どちらも行き過ぎです。最終決定権は上司にありますが、何も言わずにすべて従うのも違います。上司も人間なので、間違うことはあります。大切なのは、いつ言うかと、何のために言うかです。
場合分けで答える
どういう意味で聞かれているか分からないときは、場合分けで答えてもよいとされています。
- ・現場活動中は、基本的に指示に従います。ただし、命の危険があれば、その場ですぐに進言します
- ・時間に余裕があるときに意見が食い違った場合は、まず指示の理由を聞きます。それでも納得できなければ、他の上司に相談します
現場活動中に意見を言い争っても、仕方がありません。事務処理のときや、現場活動の後の振り返りで伝えるのが、適切です。ここまで話せると、考えがはっきりしていて、納得度の高い回答になります。
迷ったら「安全・確実・迅速」の順
消防に関する質問で迷ったら、安全、確実、迅速の順番で考えます。速ければよい、ということではありません。緊急走行中でも、他の車が通っているのに信号を無視して全速力で走れば、事故になります。まずは安全に現場に着くことが第一です。
上司の質問で「命の危険があれば、すぐに言う」と答えるのは、この考え方に基づいています。価値基準を一つ持っておくと、想定外の質問でも、大きく外れずに答えられます。
状況を変えて聞かれる質問
練習では、状況を変えた質問も出ています。
- ・上司Aと上司Bで指示が違う場合:書類の作成方法が違う、というような場面は、実際に多くあります。「上司同士で話し合って決めてもらう」は避けましょう。上司に争わせることになります。別の人に相談するか、直属の上司に従う、と答えます
- ・同期や同僚が、パワハラを受けている場合:「ちゃんと報告できますか」と、確認されることがあります
- ・年上の部下がいる場合:東京消防庁は、受験できる年齢の幅が広いため、よく聞かれます。階級が上の立場として、指示はしっかり出します。年上でも、間違いはきちんと伝えます。そのうえで、人生の先輩として敬意を持って接します
- ・クレームに対応する場合:一人で対応せず、すぐに上司や先輩を呼びます。一人の対応が、組織の対応として受け取られるためです
- ・仕事で判断に迷った場合:一刻を争うときは、すぐに聞きます。時間に余裕があれば、まず自分で考え、調べます。上司の時間には限りがあるためです
合格者のインタビューには、「自分の意見を貫く」と答えたところ、面接官から「後輩に高圧的にならないよう接したというのは、嘘ですか」と聞かれた、という話がありました。立場や状況を変えた質問に備えて、自分の答えの軸を確認しておきましょう。
「嘘をついたことはありますか」の答え方
面接本番で、こんな質問がありました。「嘘をついたことはありますか」。受験者は「ありません」と答えました。すると、「小さな嘘でもありませんか」と聞かれました。
一度もないと言い切ると、矛盾した点を探されます。この質問で問われているのは、正直さです。小さな嘘は、誰にでもあるはずです。人をだますような嘘ではなく、誰かを守るための嘘や、傷つけないための嘘もあります。たとえば、子どもの夢を守るための嘘は、大切な嘘かもしれません。「ありますが、〇〇のための嘘でした」と、嘘の中身を説明できるようにしておくとよいでしょう。
価値観質問の準備チェック
次の項目を確認してみましょう。
- □ 挫折経験を、「何があったか→気持ち→立ち直り方→今の生かし方」の流れで話せる
- □ アルバイト・学生時代・仕事・部活の、それぞれの失敗経験を用意している
- □ 聞かれたことだけに答える練習をしている
- □ 苦手なタイプを2つ、対処法とともに用意している
- □ 「理不尽な人」以外の苦手なタイプも用意している
- □ ストレスの原因が自分に向いていて、一人でできる解消法がある
- □ 上司の質問を、場合分けで答えられる
- □ 迷ったときの基準(安全・確実・迅速)を持っている
まとめ
価値観を問う質問で見られているのは、困難にぶつかったときの対処の仕方です。挫折経験は「どう立ち直ったか」、苦手な人は「共感される人と対処法」、上司の質問は「何のために、いつ言うか」が大切になります。すべての土台は、嘘をつかないこと。そして、ネガティブなまま終わらせないことです。
面接全体の質問の種類は、「消防士の面接でよく聞かれる質問と答え方|練習データ203件から」にまとめています。経験を話す土台になる志望動機は、「消防士の志望動機の書き方|面接で深掘りされても崩れない作り方」を参考にしてください。面接で落ちる原因は、「消防士の面接に落ちた理由と原因の見つけ方」で解説しています。
FFAは、令和6・7年度で131名が合格した実績をもとに、筆記・小論文・面接を、一人ひとりの状況に合わせてサポートしています。「自分の挫折経験や、苦手な人への答えが、これで伝わるか分からない」という方は、無料相談で一度お話しませんか?
